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最寄りの駅から徒歩10分。窓を開ければ、すぐ線路。立地条件は若干悪い、ベージュの外壁のこすもす荘。二階の一番奥、二○四号室。ベットの上。
窓の外に見える満月は闇の中で自分の世界だと言わんばかりに空の真ん中に陣取っている。そんな時間。
俺は、先程まで続いていた“彼女”との甘い情事の余韻に浸りながら、俺の腕の中で眠る一糸纏わぬ彼女を再度抱きしめ直した。
─…生温い風が窓から吹き込む春の夜。
大学生活も三年目に突入し、彼女と付き合い始めて今年の夏で四年。訳あって彼女と一緒に暮らし始めてからは一年という月日が過ぎた。
始めは色々あり、情緒不安定だった彼女との生活はかなり大変だったが、今ではすっかり落ち着いていた事から俺なりに彼女を支えてきた事は、決して失敗では無かったと思っていた。
「んっ…」
俺に背を向けて寝ていた彼女が小さく息を漏らしながら、俺の方に寝返りをうつ。
「…ん……」
そして、更に俺の方にぐっと近付いて、再び動かなくなった。
そんな彼女に思わず頬が緩む。
可愛らしくて、愛おしすぎて、甘やかして、彼女が望むなら何でも叶えてやりたいと思えた初めての女。彼女と出会って何年も経った今ですら、そんな気持ちが薄れているわけでなく、多分、これから先も彼女を想い続けてゆくんだろうと漠然とそう思う。
「しぃ、な……」
「っ、!?……寝言か」
そう、彼女が寝言で俺の名前を呼んだだけで、ドキドキする。
彼女が俺にぎゅっと抱きつくだけで、喉から心臓が飛び出そうになる。
「…麗」
月明かりがカーテンの隙間から射している中、彼女の名前を呼んで、長い髪を撫でた。
どうして、コイツじゃないといけないんだろう。
…なんて言ったって、答えは見つからない。そんな春の夜。
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