最終幕

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   部長が放った衝撃の決定から、もうかれこれ三日。  いろいろ慌しくなっています。  いきなり部長が仕切るのを止めて、ニコニコしながら一部員と変わらぬ態度で稽古をしていたり、冗談でわたしに敬語を使ってきたりもします。もちろん、脚本関係には一切口を出さず、タカッチが演出の相談をしても菩薩のような声で「小西ちゃんに聞いてみてちょ」と決まって言うため、みんなも最初はちょっと戸惑っていました。  誰よりも戸惑っていたのは当の小西ちゃんで、 「コーギー先輩……、これって部長の仕返しなんでしょうか?」  と、新手のイジメかと邪心していたようなので、わたしは、――大丈夫、とにかく頑張ってみなさい、と言うのです。  これには、ちゃんとした意味があることなのですから。  さて。  なんだかんだ、劇自体はもうほとんど完成に近い状態だったのですけれど、しかし、練習時間がある限り内容が流動していくのが演劇というもの。尺が決まっているとて演出、物語は無限大。みんなも順応が早いというか、戸惑いながらも、すぐにいつも通りの賑わいを取り戻していきました。          ちゅーわけで、ある日(三日後)の稽古後。 「おい、うるさいぞ」  うるさいのはソッチです。  着替えたんならさっさと帰れ。  ――そうと言いながらも、わたしは渋々とシーモさんの苦言を受け入れ、ラジカセの停止ボタンを押しました。  みんなは稽古後もしばらくステージの方に残っているようで、今現在はわたしと陰険眼鏡の二人きり。しかもシーモさんは着替えて以降、珍しく帰る素振りも見せずに長机に座りました。こんなことを聞いてきます。 「なんだ? 今の頭の悪そうな曲」  ビークル。ジャパニーズガール。キモノ、キョウト、サヨナラの唄です。 「意味がわからない。お前らしいな」  うるさいな、もう。  そしてしばらく黙っていたかと思うと、突然言ってきたのです。 「小西に演出やらせてみたの、お前だろ?」  ぎ、く、り。 「森田はそういう小細工考える苦手だからな」  はん、まるで貴方、わたしの意図することを見透かしているような口振りですが、本当にわかってるのかも疑わしいですね。第一、わたし自身もこれが正解を引いているのかわかりません。  
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