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正門から見て左奥の方が理工学部だ。
その中の一番新しい校舎に彼女は入っていった。
エレベーターで5階に上がり廊下を奥に歩いて行くと505号室に『電子生命学科第2研究室』と表札が出ていた。
「どうぞ」
八代がドアを開けて言った。
中に入ると、広さは12畳くらいで、隣にも部屋があるみたいだった。
いろいろな機械が並んでいて、いかにも「研究室」って感じだった。
見回したが誰もいない。
「先生は隣です」
八代がそう言いながら、ドアのない隣の部屋に入っていった。
彼女は部屋に入ったところですぐに横を向いて話しかけた。
「先生、あの、アロマのお店の方が来られてます」
「え?」
瀬谷さんがひょいと顔をのぞかせた。
「あれ、桐渕さん、どうしたの?」
やっと名前を覚えてくれたみたいだ。
「ちょっと久しぶりに大学が見たくなって来ちゃいました」
八代が『え?』って顔をしている。
『用事があるって言ったじゃない』とでも言いたげなふくれ顔になった。
面白い娘だ。
「あ、そう。君がいた頃とは随分変わったんじゃないか?八代君、珈琲を2つ入れてくれる?」
こっちに歩いてきながら白衣姿の瀬谷が言った。
「そうですね。ここも前は古い校舎でしたよね。八代さん、私ミルクと砂糖はいらないから」
私は奥の部屋に入っていく八代に声をかけながら言った。
「はい!わかりました!」
八代は完全にふくれ顔になって奥に入っていった。
(いじめすぎたかな?)
来るかどうかわからないけど、今度le vantに来た時はちょっとサービスしてあげようかしらと思った。
「どうぞ」
瀬谷さんに勧められて変な機械の前の椅子に座った。
丸い板に4本の足がついた理科室とかによくある椅子だ。
「でも、よくここがわかったね」
「ああ、最初はキャンパスを見に来ただけだったんですが、ちょうど八代さんに会ったから案内してもらっちゃいました」
「そうか」
彼はいつもの普通の表情で私を見ながら言った。
突然の来訪にも全然動じていない。
瀬谷さんはあまり表情が変わらないから感情が読めない。
彼の場合、自分の感情を読まれないようにするポーカーフェイスではない。
他人はどうでもいいという感じなのだ。
だからこっちも気が楽なんだろう。
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