愛しい光が消えるとき

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「ははっ。分かってるって。石川さんのお散歩は大成功。外出中も帰室後も状態の変化は無かったし。無事に済んでホッとしたよ」 「そっか~。本当に良かったね、石川さんも御家族も喜んでくれたでしょ」 「うん。それはもう」 貴重な時間を過ごせただけでなく、素敵な家族写真も撮れて大満足だ。 「それにしても、主任さんが当日参加をするなんてね。だったら私も行きたかったな~。頼んでも師長は許可くれなかっただろうけどさ」 そう言ってユリさんは、肩を左右に振って駄々っ子のように口を尖らせる。 「主任さんも参加したんだけど、結局は外来から呼ばれて強制送還。集合写真の時間まで居られなくて、残念だったな~」 「あらまぁ、それは残念。確かにね~。主任の立場上、病棟に入院してる患者の付き添いで現場不在は文句出るかも。でもさ、主任も情深い人だよね。師長と違って」 「師長と違って」はさておいて、今回の事で主任は人格者であると改めて感じた。公園でした会話は、主任の許可なくユリさんにも話せない。私と主任さんだけの秘密。……それがちょっと嬉しくもある。 「……あ、その集合写真だけど。写真を石川さんにプレゼントするって櫻ちゃん言ってたよね?確か写真立てに入れて」 「うん、昨日の夕方病室に持って行った。丁度その時に御主人さんが来ていて、渡したら喜んでくれたよ」 私がお花見を計画した最終目的。それは、石川さんの病室に飾ってある写真の横に、新しい家族写真を並べて飾る事。 かなり昔に撮った家族写真を、いつも大切に持ち歩いていた石川さん。 過去から現在。途切れてしまった時間を埋めるためにも、息子さんが大人になった、現在の家族写真を贈りたかった。それが、私だけではなく家族にとっても、後悔のない看取りに繋がると思ったからだ。
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