第五話

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   たとえ、みっともなかろうが遮二無二、勝ちに行ってやるよ。 『ま、か、せ、ろ! いやぁん、クロン選手やる気満々だぁー! オバサンちょっとドキーンとしちゃったじゃなーい!』  オバサンて。嬉しいけども、あいにく普段の俺はこんなんじゃないですよ。今はちょっとテンションが上がってしまっただけだ。で、彼女の本体は一体どこにいるんだろう? やたら声が可愛いから一回実物を見てみたいんだけども。  さておき、若々しい声帯を持つオバちゃんゴーレムが発表を始める。 『そんなクロン選手にチャレンジしてもらうのわぁ!』  常時テンションの高いゴーレムガールはゴツいコブシを天空に突き上げた。 『“ソリタリー、アイランド!”』  孤島。  そうと言われても競技内容が想像できなかったが、聞いてみると実に単純明快な種目であった。 『この競技のルールはただひとーつ! 対戦相手をリングの外へ追い出すことだけでーす!』  いかにも力がものを言いそうな競技である。 『そしてー! 第四戦でクロン選手と戦っていただく98傑集わー、セルゲイ選手!』  そうして、リングの上に現れたのは、もはや98傑集が無個性に見えてしょうがないほど、今まで通りの大男なのだ。  笑い方的には「グヒヒヒ」とか似合いそうな? 配慮して個性を見出してやれば、重量感たっぷりの、でっぷりとした丸い身体を揺り動かしながらやってきて、不愉快にも俺を見てニタニタと笑っている。  そして、 「ぐひ」  ……俺の勘も冴えてるね。  肥大漢である悪魔が嬉しそうにグヒと漏らした理由は、 「エイゼリオスの騎士じゃなくて超ラッキィ。よわそう」  うん。俺を見た目で判断するのは正しいな。  喧嘩の腕はからっきしだぞ。 『クロン選手ー、ルールについて何かご質問はありますかー?』 「あ、魔術とかアリ?」 『アリですがー、ここから見て、手首にマジックライセンスが確認できませーん』 「やっぱ、忘れてくれ」  残念がった俺が手を振ったところで、チャリーン、と、地面で金属的な音が上がった。  足元を見ると、銀色のブレスレットが落ちている。  俺は振り返った。  どうやら、シャムリーロッテが投げてくれたらしい。ここからじゃトンガリ帽子に隠れて表情が見えないが、たぶん洒脱な薄ら笑いの顔であろう、彼女は手をヒラヒラさせていた。  俺も手を挙げて礼を表すと、ブレスレットを手首に通す。
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