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麟が禿の言葉に愕然としたのは
その日の夜の事だった。
「雪…もう一回言うて」
「せやから、壬生浪士組の筆頭局長さんがお見えになりましたって」
「雪、うちちょっと具合悪いみたいやねん。他の人に頼んでぇな」
急にお腹を抱えてみせる麟に、禿はピシャリと言った。
「姐はん今の今までピンピンしてはりましたやろ。阿呆なこと言わんで早う行きますよ」
「なかなかに手厳しい…」
はあ、と深く溜め息をついて、麟は腰を上げた。
「全くしゃあないなぁ…あんた、危ないから酒だけ運んだら部屋に戻りなはれ。一悶着あるかもわからへん」
「麟姐、それどういう…」
「ほら、早う行くよ。お客さん待たしてるんやから」
禿はそれ以上何も聞かず、麟について行った。
店の奥間の前に着くと、黙って正座する。
「麟姐様のご到着です」
聞き慣れた禿の声も、
もしかすると聞くのはこれが最後かもしれない。
すっと障子が開いた。
「お初にお目にかかります…麟どす」
頭を下げると頭飾りが、シャン、と鳴った。
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