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しかし恭平の掌は、想像していたよりもずっと優しく自分の頬をいつまでも撫でている。 武骨で大きくて節くれだったその手に、彼が自分と同じ男なのだという当たり前のことを再認識した。 この手は、嫌いではない。 汗ばんで、じっとりと熱いくらいの熱をはらんだこの手は、決して嫌いではない。 そう、しなやかで丸みを帯びて、その癖少し冷たい女性の手よりは、よっぽど。 恭平の手は頬を撫でるのに飽きたのか、今度は指先で耳を掠めると、首筋へ下りて行った。 ぞわぞわと背中がむず痒くなる感覚に、直人は眉を寄せる。 そのまま後頭部を掴まれ力を込められて、直人はいとも自然に恭平の方へと引き寄せられた。 真下へとかかっていた体重が移動し、必然的に正座のかたちをとっていた足は崩れ、傍目に見れば直人が恭平の胸元に頭を預けて抱き締められているように見えるだろう。 後頭部に置かれた手とは逆の手が、直人の腰のあたりをまさぐった。 恭平の顎が直人の肩口へと凭れ、吐く息が項や耳へとかかり、やけに熱く感じる。 くすぐったいような感触に、流石に直人も制止の声をあげた。 「ちょ、ちょっと……!あの、僕はいつまで触られていれば……」 「んー……もうちょっと……」 「もうちょっとって、どれくらい」 「…………」 恭平は返事をする代わりに直人の首筋に唇を落とした。 腰をまさぐっていた手は、いつの間にか直人のズボンからきっちり仕舞われていたはずのシャツを引きずり出しその中へと侵入している。 直接背中に触れられ、脊椎の一個一個を確認するかのように背骨をなぞっていった。 「……っは、離して!」 これ以上の行為は報酬にしても行き過ぎだ。 直人は恭平の腕の中で身じろいで引き剥がそうとしたが、主に喧嘩で鍛え上げられた彼の腕は容易くほどけそうに無い。 むしろ彼は初な直人の反応にいじらしさを覚え、酷く煽られる。 恭平は直人の耳元に唇を寄せ、囁くように問いかけた。 「なぁ、委員長って、オナニーとかすんの?」 答えるよりも早く、直人は手が出ていた。 ぱぁん!と、乾いた音が早朝の屋上に響き渡った。
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