第一章 嫌悪

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「優斗ぉ、早くー!」  俺の数メートル先にある洒落た店の前で、俺に手招きしている女――柳沢唯。  もう聞き飽きた甘ったるい声が、俺の苛々をさらに掻き立てる。 「まだこことシャルルとメルエとビーキューに行くんだからっ! あ、あとあっちに新しく出来たカフェにも行きたいかも!」  まだそんなに行くのかよ……。  俺の両肩には、唯が(俺の金で)買った服やアクセが大量に入った紙袋がいくつもぶら下がっている。  その上、まだ行くのだと言う。  あー、肩が痛ーよ。  唯がそうして店の前に立っているというだけで、周りの男達の目線を釘付けにしている。  パッチリ開いた瞳に柔らかそうな長い髪、整った顔に加え素晴らしいとしか言い様のないスタイル。  外見だけは完璧な奴だ。  しかし、そんな唯に見とれているバカな男共には分からんだろう――唯が恐ろしい悪女だということに。  今だって、金は全部俺持ち、荷物も全部俺持ち、俺は全くもって楽しくない。  俺がそんな悪女と付き合ってやってるのは、ちゃんと理由がある。  別れられない理由があるんだよ。
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