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長い話の最中、直接口を挟む者は居なかった。
そしてそれは今も続いている。
では、静寂か。というとそうではない。
途中、スコールが「それであの時……」と、恐ろしいほど小さい声で呟いていたり、クラウンが「ライ……アレクセイ……?」と訝しげに首を傾げたりいたりしていた。
そしてその二人だけは今もなお、何かを呟いている。
それ以外は、多少の違いはあるが、沈黙。
殆どが俯き、黙っていた。
「……」
それが、数分間続くと、何も言わず、クロスが立ち上がった。
「クロス……」
そのまま扉に向かって歩いていくクロスに、ルビーが立ち上がり、声を掛けた。
「何だ」
一旦足を止め、嫌々そうな表情で、振り返る。
「……俺を止めようとしているのなら、無駄だ。それに、それでは約束が違う。
邪魔はさせない。お前を斬ってでも、俺は行く」
「違う。そうじゃない」
クロスの推測に、ルビーは首を振る。
「私は……クロス、あなたが結局どうしたいのか聞きたい」
「……どういう意味だ」
「クロス、あなたは結局、お兄さんを殺したいの……?それとも、正したいの……?
どっち……?」
「……答える必要はない」
そう言い切ると、クロスは扉に早足で歩く。
だが、その時。
コンコンコン……。
と、三回のノック音が響いた。
「あ……」
それに今まで黙っていたユリが反応した。
「……?」
「俺だ。話は終わったか?」
その声は、ゲームのもの。
「……あぁ、終わった」
そう言って、躊躇無く扉を開く。
そしてそのまま扉の前に居たゲームの脇をすり抜けようとした。
だが──。
「……何をする」
ゲームに肩を掴まれ、それはかなわなかった。
「止めると言うのなら、例え貴方でも……」
「まぁ、待て。お前に朗報だ」
その言葉に、クロスは虚を衝かれ、思わず懐に入れていた手をだらんとさせた。
「朗報……だと……?」
それは、無理もない事だろう。
クロスは十六年の人生の中で、真の意味での“朗報”という言葉を聞いた事が無い。
聞くのはいつも、キメラやホムンクルス関連の物ばかり……。
だから、虚を衝かされてしまった。
「あぁ、つい先刻、学院長がお戻りになられた」
「!!それは本当ですか!?」
ゲームの言葉にクロスではなく、ユリが過敏に反応する。
だが、肝心のクロスは訳が分からなかった。
「学院長……?」
思いあぐねてみるが、その名に心当たりが無かった。
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