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初夏の陽気につつまれた頃。桜が散り、緑の葉に彩られた大学のなかに、昭和初期に建てられたであろう古ぼけた校舎がある。今では主にサークル活動や部室に使われている。その地下の一番奥の部屋。地下と言っても、半地下で崖側の窓からは木々の間から湖の青い色が垣間見えている。この大学は湖に面した崖の上に立っている。現在の校舎は崖から離れた場所に建っているのだが、この校舎だけが崖っぷちに建てられている。当時、危険だということで、大学側は取り壊しを主張したが、自治会側が反対し、学生運動真っ盛りの折もあり、形だけ部室専用校舎として残されることとなった。現在は自治会側も、取り壊しに賛成しているのだが、今度は昨今の少子化で学校側の予算がなく、半ば放置状態となっている。生徒にも危険視する者も少なくなく、ごく少数のサークルがひっそりと部室に使っている。 そして、その窓を眺めていたルイは、崖側にまだわずかに残っていた桜の花びらが、湖面に向かって散っていく光景に見入っていた。日の光を乱反射させた青い湖面を背景にして、薄桃色の花びらが風の作り出す波に揺られながらさらさらと飛んでいく。ルイは詩のイメージが湧き出すのをかんじた。その時、突然部室のドアが開き、湖面に消えてしまった花びらとともに、イメージも記憶のなかに過ぎ去ってしまった。ルイは怒りを含んだ視線をもって振り返った。
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