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 午後三時三十分。場所は市立宮瀬中学。その日の授業が終わったことを告げるチャイムが鳴った(余談、このチャイムのメロディはイギリス名物・ビッグベンに由来するらしい)。  子どもたち(この歳だと子どもと取ることも大人と取ることもできるが、未成年という点から子どもとする)は、その日の束縛から解放されてそれぞれの自由な時間を過ごす。  ある人は、そのまま、まっすぐ家に帰る(どうせ寄り道をするのだろうけど)。またある人は、部活に行き、精一杯汗をかいたり(青春してんなあ、とか思いながら)、創作に精を出す(悪ふざけしながら)。またある人は、補習・居残り(今時いない?)。およびその他諸々。  各々が各々の帰途につくために、廊下には沢山の制服姿が溢れていた。  私・葉月百合(二年生)は「帰宅部」である上委員会などに所属しているわけでもない。従って、チャイムが鳴ると私の取る行動は、先程言った中の第一項、ということになる(括弧内は無視)。ただし、私の場合は他の人とちょっと違う。帰り道への就き方が。他の生徒が廊下の端、階段へと向かう中、私は逆方向へと行く。その場所は、廊下に取って付けたかのような二メートル四方の空間。地図で見ればこぶが付いたようにも見える。そしてそこには、三角形と、逆三角の付いたボタン。私は逆三角の「下」を意味するボタンを押す。チン、と音がして自動ドアが開いた。  これは本来車椅子などの障害者のために設置されたエレベーター。つまりこれは一般の生徒は使用できない代物。私は脚に障害を持っている訳じゃないけど、私はこれを使うことを許されている。なぜなら、私は「一般」だけど「特別」だから。  中に入って「1」を押し、「閉」を押す。扉が閉まり、景色が上へと流れていった。
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