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人はパニックになると思いがけない行動に走り、そこに歯止めがかかるとふいに泣き出したりする。
その後泣き疲れて眠る、というのはよくあるパターンであるが、この時の花蓮も例外ではなかった。
土方の胸で一通り泣き終えると、首に巻き付いていた腕がゆっくりとほどける。
土方が花蓮に目をやれば、既に意識はなかった。
――ったくこの娘は…。
散々暴れて、泣き出した挙句、寝るか!?
ふぅと一つため息をつき、土方は花蓮を抱き上げた。
「永倉。」
沖田の部屋の入り口で様子を見守っていた永倉に、土方は花蓮を差し出す。
「もう大丈夫だとは思うが、まだ心配だ。ついててやってくれ。」
呆然と目の前の光景を眺めていた永倉だったが、はっと我に返るとしっかりと頷く。
「頼んだぞ。」
その永倉の姿に安堵を覚え、土方は花蓮を渡した。
受け取ると、永倉は山南と共に再び花蓮の部屋へと歩いて行く。
「…ったく、何があったって言うんだよ。」
端からみれば、土方は落ち着いて花蓮に対処していたが、本当はかなり戸惑っていた。
…あれが、本当に花蓮か?
ぼけぼけしてるくせに仕事だけはいっちょまえにこなす女。
ほんわかした空気を放つくせに、氷のような殺気を持つ女。
何も考えていないようで、怖いくらいの鋭さを持つ女。
冷徹に同志を斬り捨てたかと思えば、酷く悲しむ女。
矛盾が作りあげる、花蓮という存在。
でもそれは、彼女自身が持つ表の姿と乗り越えてきた過去が作りあげた裏の姿とが共存しているからだと…土方はそう解釈していた。
花蓮の過去の全てを知る、土方は…。
「…さっさと起きないと、花蓮が心配するだろうが。」
目を覚まさない沖田に、土方はそっと呟いた。
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