~強運~

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「代償のいらない薬…ですか。」 青年は不思議そうな顔をして呟いた。 それもそうだろう。 今までは何らかの代償を必要としていたのに、今回に限ってそれを要求しなかったのだ。 「彼の情報が、それほど有力なものとは思えません。」 「有力だったから無償で売ったわけじゃないわ。それに、あなたの言う通り、有力な情報ではなかったわね。」 「では、何故?」 「何故あれが無償だったか。それはあれが《強運》の薬ではなかったから。」 「…はい?」 女性は優雅に紅茶を飲みながら答えた。 「《運》というのは周期的に訪れるものよ。彼に売ったのは《周期を縮める》薬。そして、周期を縮めると運命に歪みが生じる。強いて言うなら、その歪みが代償ね。」 「なるほど。」 「ただ…一つ心配していることがあるの。」 「何ですか?それは。」 カチャリと静かな音を立てて、女性はカップを皿の上に置いた。 そして、窓の方を見て、珍しく悲しげな表情をした。 「私の読みが正しければ…彼は大事なものを…大切な人を失うわ。フィノの目的が予測通りなら、ね。」 そう言うと、女性は再びカップを唇へ近づけた。
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