44758人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
「代償のいらない薬…ですか。」
青年は不思議そうな顔をして呟いた。
それもそうだろう。
今までは何らかの代償を必要としていたのに、今回に限ってそれを要求しなかったのだ。
「彼の情報が、それほど有力なものとは思えません。」
「有力だったから無償で売ったわけじゃないわ。それに、あなたの言う通り、有力な情報ではなかったわね。」
「では、何故?」
「何故あれが無償だったか。それはあれが《強運》の薬ではなかったから。」
「…はい?」
女性は優雅に紅茶を飲みながら答えた。
「《運》というのは周期的に訪れるものよ。彼に売ったのは《周期を縮める》薬。そして、周期を縮めると運命に歪みが生じる。強いて言うなら、その歪みが代償ね。」
「なるほど。」
「ただ…一つ心配していることがあるの。」
「何ですか?それは。」
カチャリと静かな音を立てて、女性はカップを皿の上に置いた。
そして、窓の方を見て、珍しく悲しげな表情をした。
「私の読みが正しければ…彼は大事なものを…大切な人を失うわ。フィノの目的が予測通りなら、ね。」
そう言うと、女性は再びカップを唇へ近づけた。
最初のコメントを投稿しよう!