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昔々、粉雪の降りしきる頃、あるところを黒猫が走っていました。
かつては艶やかに光を弾いていたであろう毛並みは薄汚れ、傷だらけの体は今にも倒れてしまいそうです。
しかし、それでも黒猫は透き通った綺麗な瞳で前を見ていました。
黒猫は首に一通の封筒を結びつけていました、その中にはかつて黒猫の飼い主だった人に託された手紙が入っています。
これを故郷で待っているはずの自分の彼女に届けてくれ、と。
そう言い残し、彼はこの世を去ったのです。
だから黒猫は走りつづけます、親友との約束を果たすために。
どれだけ傷だらけになろうと、どれだけ薄汚れようと一生懸命走りつづけます。
初めて自分に温もりを教えてくれて、初めて自分に名前を与えてくれた、唯一の友達の事を思い出しながら…。
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