夏の思い出

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ちょうど金子が4人をのしている最中。 駅裏ではなくて、駅前。 「可愛いお姉ちゃん、連れてんなぁ」 にやりと厭らしい笑みを浮かべて佐賀の前に現れたスキンヘッドの男、牧瀬智也。 「あ?・・・。」 今朝方の加持の電話を思いだした。 確か青木を襲ったヤツもスキンヘッドで… こんな悪人面そうそう居ないだろう。 そろりと、視線を左右へと動かす。 後に男が2人。 (3人か…彼女を連れて逃げたほうが懸命だな…) そっと手を伸ばし隣の彼女の手を取ろうとしたところで、 「きゃぁっ!!」 彼女が声をあげた。 ずるりと後に手を掴まれた彼女は佐賀から引き離される。 佐賀の後にももう、2人。 気づくのが遅かった。 「佐賀直太朗?」 「だからなんだよ、彼女は関係ねーだろうが?」 ふと、辻の女がマワされたことを思いだした。 こいつらにそういう話が通じるだろうか…。 背中に嫌な汗がじわりと浮かぶ。 「大人しくついて来たら女は逃がしてやるよ?」 ニヤニヤと笑う男の顔からは、それが到底本当とは思えない。 だが、下手には動けない。 隙をついて逃がすしかないと、佐賀は男達についていく。 薄汚い狭い路地を通り、駅前を逸れる。 確か、先にコンビニがあるはずだ。 それを通り過ぎればあとは、人気のない住宅街に入る。 前に彼女と男3人、両脇に2人。 (しばらく喧嘩してねーからな…) はぁっと気づかれないように佐賀は深呼吸をする。 うまくやれるか想像する。 そうして、右側の男に一発、すかさず左の男が驚いている間に一発。 前の男らが振り返ると同時に彼女を拘束している男へ一発。 それが精一杯だった。 拘束の緩んだ、彼女を突き飛ばし、 「はやく、先のコンビニへ!」 一瞬遅く、男の手が空振り、彼女はヒールを諸共せず走り出す。 あぁ、逃げ足の速い子でよかった。 そう思う間に、どすりと、腹に重いパンチを食らった。 「うぐっ…」 「遠藤、女はいい!」 追いかけようとした、男をスキンヘッドは呼び止める。 「おいおい、女逃がしちゃっていーのかよ?佐賀くんよー」 膝から落ちそうになる、佐賀の腕を牧瀬はぐっと掴んだ。 持ち上げられた腕はギリギリと掴まれ、佐賀は顔を歪めた。 その顔に、男は顔を近づけ、ニタリと笑う。 「んじゃ、遠慮なくアンタに相手してもらうことにするよ。」
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