前夜2⃣

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コウエンの慣例として 王宮の外で生まれた子供は 正式な王族としては 認められない。王からは 祝いの品が届いたが それでもリナが庶子である ことに変わりはなかった。 リナは長く自分の父親を 知らずに育った。それでも 母であるマリは心から リナを愛してくれたので 寂しくはなかった。 リナが自分の父親の身分を 知ったのは、十二歳の 誕生日だった。 「もう子供じゃないもの」 といって、マリは すべてを話した。 父の身分のこと、 二人の出会いのこと、 お互いを思いながらも 別れたこと。リナは そうとは知らされて いなかったが、王からは 毎年誕生日の贈り物が 届けられていた。幼い頃に 大事にしていた人形が、 気に入っていた衣裳が、 特別な日にだけ履く靴が、 父からの贈り物だとリナは この時に初めて知った。 会ったことはなくても そこには愛があふれている ように感じられた。 その日からリナの夢は 父に会うことになった。 約一年後、その夢は 大きな代償と引き替えに 叶えられた。マリが 死んだのだ。それは 誰も何も悪くない 不幸な事故だった。 子供をかばって、突風で 飛んできた看板の 下敷きになったのだ。 近所でも慕われていた マリの葬儀には、 多くの人が集まった。 その中にそっと 紛れるようにして 王の使者の姿もあった。 「このたびは…まことに  残念なことで  ございました。  参列者の方々を  見ても故人のお人柄が  忍ばれます」 「ありがとうございます」 「…リナ殿、このような  席で申し上げるのは  失礼かと存じますが…  当方に出仕なさるつもり  はありませんか?」 「はい?」 「つまり、王宮に  侍女として勤めるつもり  はありませんか?」 「……」 「これは、わが主人の  たっての希望です。  ぜひ一度お会いに  なりたいと…。  そのためには後宮に  出仕していただくのが  一番自然なのです」 「本当ですか…?」 「はい。ぜひに」
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