後夜1⃣

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「名前と年齢を  言いなさい」 「…リナ・テイゼン、  じゅうろく」 リナの手は後ろ手に 縛られていた。 「君の職務は?」 「…後宮の、侍女です」 「もっと具体的に」 目の前の男はかなり いい身なりをしていた。 軍服には勲章がたくさん ぶらさがっていたし、 顔色も憎らしいほどに 良かった。きっと後方に いた将校なのだろう。 「正妃様付きの侍女  でした。…主にお部屋の  片付けなんかを」 部屋には軍人が うようよしていた。 将校の隣に一人、 壁ぎわに一人、 扉の両脇に一人ずつ。 さらに、リナの両脇にも 一人ずつ。相手は両手の 自由もきかない 小娘一人なのに。リナは 半ば呆れながら思った。 「勤めは何年だ?」 「三年くらいです」 これから、どうなるの だろうか。とはいえ、 敗戦国の女の未来など、 たがが知れている。 「王の前に出たことは?」 やはりその質問か。 リナは気付かれないように ため息をついた。 あの落城の日以来、 これまでにもまして 厳重に閉じ込められていた 後宮の女達は、今朝から 一人ずつ取り調べを 受けていた。彼らは 探しているのだ。 女達の胎に 抱かれているかもしれない 王の子供を。 「一応、王妃様付き  でしたから…」 「あるんだな?」 「はい」 「では次に、王の寵愛を  受けていた女の名を  知るかぎりあげなさい」 予想していた言葉とは 少し違った。自己申告では ないのか。でも、その方が 正確なのかもしれない。 複数の女達から名を あげられた女は黒、 ということだろう。 「正妃様です」 女達の中には、 あることないこと ぺらぺらと《密告》 する者もいるだろう。 自分はどうだろう。 リナはかつての同僚達に 思いをめぐらせた。 恨まれるようなことは していないつもりだが、 一人くらいには名指されて いるかもしれない。 「他には?」 「ベラ様、シューカ様、  ユリイ様…」 「他にだっ!」 将校はかなり苛立った 様子だった。それも そのはずで、リナが 名をあげた女達はみな、 王の子を産んだ 妃達なのだ。彼らが 知りたいのは、もちろん そんな名ではない。 公にはなっていないが、 王と寝た女。 彼らはそれを探している。 そのことはリナも よくわかっていた。
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