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少女は耳を澄ます。遥か遠くから聞こえる声に。
それは懐かしく耳の奥に響き、そして残る。
けれど、けして頭の中には残らない。砂時計のようにさらさら、さらさら記憶の海へ埋没(まいぼつ)していく声。
「あなたは、だぁれ?」
彼女の問いに答えるものはいなかった。
重いまぶたを持ち上げる。
少女は目を覚ました。
***
まず始めに見たものは赤。
その次は黒。
草原に点在する若木の木陰に立ち尽くし、少女はしばし呆然とその光景を眺めていた。
「………。」
赤は燃え盛る炎。黒は天に轟々とたなびく煙。
少女の周りは真っ赤な炎が若草を舐(な)めながら緑の草原を黒の煤野(すすの)へと様相を変えていく。
「………。」
薄い青のスカートは舞い上がる熱風になぶられ、ばたばたと騒音を鳴らしていたが、少女は気付かぬように周りの光景を凝視していた。
「何? これ………?」
舞い散る草々のなれの果て、大地をえぐる爆撃、新たに築かれる火柱、そして、自分に向かってくる土煙。
土煙をたてているモノ、それはどんなに平和な世の中に育とうとも間違えようのない盗賊の格好をした盗賊だった。
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