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「先輩っ!」
真っ赤な顔のまま叫ばれて、俺はキッチンへと逃げ出した。
あのまま宮下のそばにいたら、本当に泣いてしまいそうだ。
涙腺が緩くなった気がする。
顔の筋肉も、体も、心も。
宮下と出会ってから、俺の全てがゆるゆると解れてやわらかくなっていった。
頑なに閉ざしていた心を、温かく溶かしてくれた人。
それが5つも年下だなんて。
笑えてしまう。
今日はとことんお祝いしようと、とっておきのワインを出した。
冷蔵庫の扉を開けて、中をのぞく。
つまみにチーズを取り出して、皿を取ろうとしたところで。
大きな足音とともに、宮下がキッチンへと駆け込んできた。
「ワイン飲むだろ」
何事かと思いつつ、チーズ片手に振り向いた。
宮下は、まだかすかに赤い顔で、俺の顔の前に手をつきだした。
「先輩。これ!」
目の前に突きつけられた、銀色のもの。
あ…合鍵。
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