誕生日

8/11
12887人が本棚に入れています
本棚に追加
/256ページ
「先輩っ!」 真っ赤な顔のまま叫ばれて、俺はキッチンへと逃げ出した。 あのまま宮下のそばにいたら、本当に泣いてしまいそうだ。 涙腺が緩くなった気がする。 顔の筋肉も、体も、心も。 宮下と出会ってから、俺の全てがゆるゆると解れてやわらかくなっていった。 頑なに閉ざしていた心を、温かく溶かしてくれた人。 それが5つも年下だなんて。 笑えてしまう。 今日はとことんお祝いしようと、とっておきのワインを出した。 冷蔵庫の扉を開けて、中をのぞく。 つまみにチーズを取り出して、皿を取ろうとしたところで。 大きな足音とともに、宮下がキッチンへと駆け込んできた。 「ワイン飲むだろ」 何事かと思いつつ、チーズ片手に振り向いた。 宮下は、まだかすかに赤い顔で、俺の顔の前に手をつきだした。 「先輩。これ!」 目の前に突きつけられた、銀色のもの。 あ…合鍵。
/256ページ

最初のコメントを投稿しよう!