昔話

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綾愛の死後、ある程度落ち着くと、康太は女を連れて帰る事が多くなった。 派手な化粧に派手な服装。康太と比べると十は若いであろう女性達。 康太は酒に女に溺れ、育児放棄に家庭内暴力。 祐介は空腹や暴力に堪えながら、見様見真似で恵梨華をあやした。 ミルクを飲ませ、オムツを代えた。 寝かしつけたりもした。 誰も二人を助けてはくれなかった。 そうこうしている内に、康太の暴力は恵梨華にまで向けられようとしていた。 祐介は毎晩恵梨華を抱えて家中を逃げまわっていた。 そんなある日。 祐介は生まれて初めて反抗する。 「僕はガマンできる。だけど恵梨華にはやめてください。恵梨華を叩くなら代わりに僕を叩けばいい」 それは康太との初めての会話だったかも知れない。 しかし、祐介の気持ちは康太に届かなかった。 意図も簡単に蹴り飛ばされ、姿見にぶつかる。衝撃で鏡は割れ、幾つかの破片が祐介の体を、神経をも引き裂いた。 後で訪問してきた光雄に、病院に運ばれたが、祐介の左腕の痛感は完全に使い物にならなくなった。 程なくして光雄の助言のもと、祐介は永井家を出て行った。 綾愛の僅かな遺品と、恵梨華を抱えて。
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