予兆

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「貴方は私が必要ですか?」 またいつものように声が聞こえてくる。 「特に必要と言うわけではないんだけどな…」 「貴方が今訊ねようとした友人は貴方の疑問に答えることは出来ません。」 「なぜお前にそんなことが分かるんだ?」 「それは今の匂いが貴方の過去に残る物、事であるからです。」 「それはどういう意味なんだ?」 「貴方の嗅いだその匂い… それは貴方と彼女をつなぐ、そして、貴方と彼女以外知り得ない事なのです…」 「つまり、あの匂いについて知っているのは俺ともう一人だけと言うことか?」 「そういうことです。 では、再び貴方に問います… 貴方は私が必要ですか?」 「ああ、教えてくれ。 この匂いの正体について…」 「では参りましょう。 今の貴方に深く影響しているあの匂いについての過去へ…」 そういうと、視界が真っ白になり、なにも見えなくなった。 それから少しして、セピア色の視界が広がる。 いつものパターンであり、この後には色がついていく。 『ねぇ、りゅうくん。 これお土産。』 女の子(取り戻した過去により真子であると思う)が幼い隆一に何か小さな紙袋を渡した。 『ねぇ、これってなあに?』 隆一が不思議そうに聞くと真子が開けたら分かるよと嬉しそうに言った。 その指示通りに袋を開けると木彫りのふくろうのキーホルダーが出てきた。 『わあ! 可愛いね! ありがとう、まさちゃん。』 『実はね、それスッゴクいい匂いするんだよ!』 『ほんと!?』 そういうと雅子は首を縦に大きく振る。 それをみて隆一はそれの匂いを嗅いだ。 『わあ、ほんとだ! 甘い匂いがするね!』 『でしょ!』 その後も二人でワイワイと話をしていたが、音が小さく聞き取れなかった。 「あの匂いはあのキーホルダーの匂いか! でも、あのキーホルダーにも見覚えがないな…」 そういうと隆一は考え込み、例のキーホルダーが今どこにあるのかを記憶から探そうとした。 「貴方の記憶ではあのキーホルダーの行方を知ることは出来ません…」 「それはつまり消えた記憶の一部にあるって事なのか?」 「そうです。 そして、その記憶の一部こそ貴方が記憶を閉ざした原因となる最も大きな要因なのです。」
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