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「すごいな、今年も……」
その称賛の言葉が何を指しているか、それは分かる。
俺はゆっくりと目を開き、置いてある大量の花束に目を向けた。
「うん。
皆、エルとアリーナさんの事……好きだから」
きっと、それだけではないだろうけど。
贖罪の気持ちもたぶんある。
それでも、その気持ちだけではない。
「……そうだな」
短く返し、ヴァルスは優しく笑った。
「んじゃ、そろそろ行くか」
明るい口調でヴァルスはそう言い、立ち上がる。
そして俺に笑いかける。
「うん……。
そうだね、行こう。
テミルさんの所に……」
墓石を見つめたまま、俺はそう返した。
-+-
砂利を鳴らしながら、ならされた地面を歩く。
見えてきた、目的地のレンガ造りの家を見上げる。
日当たりがいい場所にあるその家は、今日も陽に明るく照らされている。
二階の窓にも陽は当たり、俺の目に強い光を映した。
俺はその光を避けるように視線を地面へと逸らす。
しかし逸らしても、陽は俺を照らし続けた。
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