家族

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また心がざわつく。 今すぐ車から引きずり降ろしたい衝動を抑え、窓を叩いた。 「來斗さん!?」 俺に気付いた剛は驚いた顔をして、外に出てきた。 「どうしてっ?」 …どうしてじゃねえよ。 「ここで何してるんだ?」 そう問いかけると、剛の顔が引きつった。 「何って…」 「……っ」 …んだよ、その反応は。 何で目を逸らす? やましいことがあんのかよ? どんどん悪い方向に考えがいく。 すると、男が車から降りてきた。 「誰だ?」 そいつは物怖じせず俺の前に立つと、まじまじと見てきて、やがてふと笑った。 その余裕な感じがさらにムカついた。 「そうか。君が柳澤來斗くんか」 何で名前知ってんだよ。 「…だったら何?」 「俺は剛の兄で武です。弟がお世話になってるみたいで悪いね」 「兄…?」 頭に血が上っていたせいで、一瞬聞き間違いかと思った。 「そう。本当はもっとちゃんと挨拶するつもりだったんだけど」 剛の兄…この人が…? 兄がいることは聞いていたが、似てないから分からなかった。 「…いえ。こちらこそすみません」 ようやく冷静になった俺は軽く頭を下げた。 「よろしく」 彼はにこやかに右手を差し出してきた。 その手を握り、握手をした。 笑った顔は、少し似ている気がした。 …俺の勘違いか。 ホッとしたけど、情けないな。 剛を疑ってしまった。 最低だ…。  
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