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『―月神・月読尊(つくよみのみこと)の加護が消える朔(さく)の日には、決して湖に近づいてはならぬ。
近づいて、帰ってきた者は未だかつていない。』
それは、親から子へと代々伝わる伝説が、未だ明らかな形として証されていないからだ。
それは言わずと知れた、村の禁忌。
好奇心の旺盛な、小さい子供ですら怯え近づかぬ湖。
だから、言われているのだ。
―…あの地には化け物がいる、と。
ある者は語る。
『湖面に浮かぶ楼閣(ろうかく)』の伝説を。
『朔の日にのみ顕(あらわ)れるその楼閣には濃艶で嫉妬深い天女が住むという。
その気性故、天界から追い出され、今はその楼閣に住み、近隣の村に美しいと称される女あらばその女は食われる』と。
それを戯言(ざれごと)だ、と一蹴出来る者はいない。
何故なら、実際にその女が消えていくのだ。
……過去に消えた女達の消息は、ようとして知れない。
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