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「…そして、サンタクロースは赤いおはなのトナカイをなでてクリスマスの夜に駆けていきました、おしまい。」
お母さんが優しい声で本を読み終える頃にはもうマヤは夢の中でした。
今日はクリスマスイブの夜です、明日の朝マヤが起きたら枕元にはマヤの欲しがっていたクマのぬいぐるみが置いてある…はずでした。マヤのおうちが、もっと裕福ならきっと…そうなっていたに違いありません。お母さんが本と格闘しながら作った七面鳥のオーブン焼きとか、丸太の形をしたブッシュドノエル。飲み物は、お母さんはシャンパン。マヤはシャンメリーで、乾杯。そんなクリスマスを迎えていたのかも知れません。
大きなモミの木を買ってきて、お母さんとマヤで綺麗に飾りつけ。
てっぺんの星は、きらきらと光る電飾入りのやつ。
夜、部屋のあかりをまっくらにしてツリーのスイッチをいれると、きらきらパチパチ。
まるでおとぎ話の世界に来たような、そんな夜をマヤは生まれてから一度も、体験した事がありません。
マヤのおうちは、それはそれは貧乏でした。
さっきお母さんがマヤに読み聞かせていた絵本だって図書館で廃棄処分になったボロボロの古いヤツです。
今日の晩御飯なんて、野菜の切端をコンソメスープでコトコトと煮ただけのスープと、少し固くなったライ麦パン一枚です。
去年のイヴにはもう少しいいものを食べていたような気もするのですが、今年はそうもいきません。
マヤが呼吸をするたびに、マヤの喉がぜろぜろと鳴ります。
マヤは、病気でした。
九月くらいからずっと咳が止まらず、ずっとごほごほとむせていたのですが十一月に入って間もなく、マヤは高熱を出してしまいました。
すぐに病院に連れていったお母さんは、そこで先生にたくさんの説明をされ、たくさんの書類を渡され、たくさん泣きました。
マヤの病気は、そう簡単に治るものではなかったのです。
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