壱.野市

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  戦場でも市が開かれる。   武器商人や恩賞に与れない足軽達が、ついさっきまで装着され、使用されていた武具を討ち死にした体から失敬し売りさばくのである。   煉骨はしげしげと地に並べられた武具を品定めしていた。 今回の戦で、銀骨は派手に負傷した為、その改修の部材が必要になったからだ。 そこへ、 「煉骨の兄貴、留め金が壊れちまった」 情けなさそうに蛇骨が寄って来た。 煉骨は目もくれず、突き放した。 「後で見てやる。邪魔をするな」 「落っこちまうよぅ」 やれやれ、と振り向くと両手で胸当ての下辺りを支えている。 着物の袷から痩せっぽちの鎖骨と胸元が覗いていた。 「兄貴ぃ」 「お困りなら安くして差し上げましょう」 商人とみられる中年の男が胸当てを手に、口出ししてきた。 鼻の下を伸ばし妙に優しげな声音で。 咄嗟に煉骨は蛇骨を抱えると、大急ぎでその場を走り去った。     「…煉骨の兄貴、苦しいよぅ」   本陣近くまで帰ってくるなり、華奢な体を乱暴に降ろし、煉骨は怒鳴りつけた。 「邪魔をするなと言っただろう!!」 蛇骨がびく、と首を竦めた途端、胸当ての金具が音を立て、落ちた。 「あ…」 きゅうっと眉が八の字に下がった。 「取れ…」 瞳が潤み、顔を伏せた。
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