序章・断ちきる斧

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「我が魔王の使いだからよ」  その言葉を聞いて、男は驚愕した。 「馬鹿な。前回で完全に滅んだのでは・・・」 「滅んだ。滅んだだと。何も知らぬ無知で愚かなことを続けている貴様等が何を言う」  虎はまるであざ笑うかのように言った。 「なれば、ここは通さん。ここは生きとし生ける総ての希望の聖地。決して絶やすわけにはいかないのだ」 「ぶわぁはははは」  虎はさらに大声で笑い出した。苛立たしく憎らしげに。 「無知にこれ以上の問答は無用」  虎が大きく斧を振りかぶる。 (あの一撃。あれを受け止めることも。刃をかいくぐることも不可能だ)  男のできる手段は一つしかない。すなわち受け流すこと。振り下ろされた斧はすぐには切っ先を返すことも出来ない。その瞬間を狙うしかない。  斧が勢いよく振り落とされる。男は全身全霊を込めて受け流そうとするが・・・ (なんだ?この重さは)  刃を斜めにして受け流そうとしているにもいるにもかかわらず。その斧は関係なく。真っ直ぐに衝撃で男の手を砕きながら頭から両断した。 「さぁ、みなのもの。待ちに待った最後の惨劇だ。全員殺せ。例え子供でも人一人残さず全員だ」  虎が号令をかけると。魔物共が一斉に姿を現す。そして逃げまどう人々を襲う。 「これで、これで長年の我が思いが成就される」 虎は一人でそう呟いた後。先ほど にもまさる勢いで人を殺し始めた。  日が明け。魔物達が過ぎ去っていた後。そこに残るは人の死体の山だった。その中に一つだけもぞもぞと死体が動き出す。死体の下からまだ5歳程の少女が出てきた。 逃げ切るのは不可能と判断した少女はそのおぞましさを我慢して死体の下に隠れていた。 「父様。母様」  一人寂しそうに呟く。生きていないことは予想がついた。そして、それを悲しむように少女が抱えていたものが泣いた。 「おぎゃぁ。おぎゃぁ」  まだ、生まれて一月の年が経っていない赤子。少女の妹だから。 「大丈夫。あなたは私が護るから」  少女は気丈にもそう振る舞った。行く当ては幸いにもある。 (父様。母様。私は最後のカクルの守護者としてこの子を守り抜きます)  そう、決意して少女は歩き始めた。
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