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地下駐車場から出るなり、暁龍はまぶしさに眼鏡の奥の目を細めた。その様子にわずかに笑みを向けて見せてから、楊香は切り出した。
「で、こっちの失態はどこまでそっちに伝わっているのかしら?」
「失態?」
「当局メインシステムダウンの事」
ああ、と言いながら暁龍は窓の外に視線を巡らす。言い難い光がその瞳に浮かんで消えた。いつもと異なりどこか精細を欠く暁龍に、楊香は小さくため息をつく。
「ルナ支局経由の意味不明な電文が原因、だったとか?」
「I hate you…,but I loved you.from A」
「……は?」
突然の言葉に言葉を失う暁龍に、楊香は正面を見つめたまま続けた。
「私は貴方達を憎む。でも、愛していた……。さて、ここで問題です」
前方の信号が、彼らに停止するよう告げた。楊香はハンドルに頬杖を付きながら続ける。
「差出人のAさんは、誰でしょう」
「知るか」
「さあ、どうかしら」
楊香の切り返しに、暁龍は数度瞬く。前方を見据えたまま、楊香は何気無い口調で続ける。
「今回のI.B.の動きは、今までと違う。そうは思わない?」
前方の信号が変わった。楊香は姿勢を正し、アクセルを踏み込んだ。
「違う?」
首をかしげる暁龍に、楊香は正面を見据えながら答えた。
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