1818人が本棚に入れています
本棚に追加
/740ページ
「気付いちゃった?」
ニヤリと芹那を振り返る西川。
「でも、今日は勉強よ?」
スタッフが防音のドアをそっと開く。
その中は熱気に包まれていた。
手を振り、こぶしを突き上げる観客。
お腹の底を揺らし、小刻みに、でも激しくリズムを刻むドラム。
そのドラムに絡み付き、観客を煽るベース。
複雑な音を次々と奏で、会場の歓声を更に引き上げるギター。
そして全ての中心となり、ステージや観客を自由自在に操り盛り立てるボーカル。
ステージには、JULIAがいた。
「達哉さん・・・」
いつもとは全く違う達哉がステージに立っていた。
この間、抱きしめてくれた優しい達哉ではなく。
今日は攻撃的で、時に切なく観客を煽る。
今すぐにでも観客に混ざってライブを楽しみたい。
そう思っているのが伝わったかのように、すかさず西川が芹那に言う。
「観客席で見たいでしょうけど、私達は関係者席よ。一応、仕事という名目で来ているからね。ライブの勉強という仕事よ。それに芹那ちゃんが観客席に居たらパニックになるわ」
それでも嬉しかった。
ライブステージに立つ達哉を見る事ができるなんて、そうそうない。
二つだけ空いている席にそっと座った。
キョロキョロと周りを見ると、達哉と仲のいいミュージシャンや業界関係者等、有名人だらけだった。
「西川さん、ありがとうございます」
芹那はそっとお礼を言った。
最初のコメントを投稿しよう!