第一章

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 第一章

 「いやいや。あいつおかしいってっ!!狸からも言ってやれよっ!」  目の前にいる、小さな狸に、俺は文句をつけた。  「そうかのー?ワシにしてみたら、小僧に目を付けるなんぞ、良い趣味じゃと思うがの。」  狸は涼しげな顔で、書類に印をペタペタと押してゆく。  この狸、見た目は可愛らしいが、中身は神を創った一族の末になり、中々手厳しい。それでも俺は引き下がらなかった。  「第一、あいつと俺、年が幾つ離れていると思う?!」  「ワシと月人なんぞ、お前等より離れとるぞ?」  「……身分が違うし……。」  「坊は次期法皇に決定しとる。小僧は四季神の春神じゃ。ピッタリじゃろ?それにワシと月人なんぞ、もっと身分違いじゃったな。あれは人王の一族とは言え、引き取る前は人間に変わり無かったしの。」  「た、狸は自分の弟子が可愛く無いのかよっ!!こんな親爺に惚れ込むなんてっ!!おかしいだろっ!!」  狸は、やれやれと溜め息を吐いた。  「可愛いから、小僧と幸せになって欲しいのー?ま、ワシにしてみたら、小僧も坊も可愛い弟子じゃからな。ちなみに月人も可愛い弟子じゃったのー。」  「…………!!狸の毛皮っっっ!!人間界で丸坊主にされて、つるつるになりやがれっ!!!いいか、俺は絶対、あのガキのモノにはならないからなっ!!後、何げに惚気るなっ!!!」  それだけを言い残して、俺は狸の執務室を飛び出した。  「………毛皮。なんじゃい。お主がこの姿じゃないと泣き止まなかったから、この姿なんじゃがのー。ま、ああは言いながら、内心は憎からず思っておるようじゃな。恋に落ちるには良い季節じゃろ。」  狸は優しく微笑むと、窓の外に見える花の蕾を見つめた。
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