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「…なんだよ」
蛇骨はわずかに上体を低く構え、瞳を光らせている。
「そぅびくつくなよ」
龍羅は薄ら笑った。
「誰がびくついてんだっつーの」
「裸足は辛ぇだろ」
「余計なお世話だよ」
細い肩をそびやかした。
蛇骨は完全につむじを曲げていた。
さっきのあの龍羅の言い方、目つき。
安い場末の娼婦をあしらうようで気に入らなかった。
背を取りに来たのもからかわれているみたいで、癪だった。
(一回やったくらいでなんでぇ。神だろーが網だろーが見下してんじゃねぇっつーの)
頭にきてはいたが、間合いは十分に取っていた。
決して油断していたのではない。
ただ、龍羅が風のように早く動いただけのことだった。
瞬時に間合いを詰められ、呆気にとられている間にさっと抱き上げられた。
「くそっ!離せっ離せよっ馬鹿野郎~~!!」
二度ならず三度までも取り押さえられるなんて。
接近戦では歯が立たない悔しさを爆発させた。
伸びやかな四肢を可能な限りばたばた振り回し、激しく抵抗した。
「離せーーっ!!」
その様子を龍羅は珍しい生きものを観察するかのように眺めた。
こんなところへ堕ちていながら、なんて活きのいい魂だ。
むくむくと仕置きしてやりたい気持ちが首をもたげる。
もしくは、ちょっとした嫌がらせの思いが。
必死で逃れようと暴れ、悪態をつく蛇骨の耳をおもむろに噛んだ。
「いてっ何しやがんだっ!」
蛇骨は鎮まらず、自由のきかない方の腕でひじ鉄を食らわそうとする。
(なんだ。さっきはこれで静かになったんじゃなかったか)
予想していた反応が得られず、龍羅は戸惑った。
万力のように蛇骨をがっちり捕えたまま、暫く思案した。
その間も蛇骨は馬鹿だの、鱗野郎だのと罵声をやめない。
(ったくぎゃんぎゃん喧しい奴め)
他愛ない罵声だが、こう至近で喚かれては耳障りだ。
(とりあえず、口を塞いでやろう)
「蛇骨」
低く呼ぶと、ぎっと睨みあげ、黙ってれば可愛らしい口をなお、曲げた。
「いい加減離せ!ちょっと何、」
その悪い唇を無理やり、食んだ。
瞬間、龍羅の体に震えが走った。
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