8.みちゆき

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  「…なんだよ」 蛇骨はわずかに上体を低く構え、瞳を光らせている。   「そぅびくつくなよ」 龍羅は薄ら笑った。 「誰がびくついてんだっつーの」 「裸足は辛ぇだろ」 「余計なお世話だよ」 細い肩をそびやかした。   蛇骨は完全につむじを曲げていた。 さっきのあの龍羅の言い方、目つき。 安い場末の娼婦をあしらうようで気に入らなかった。 背を取りに来たのもからかわれているみたいで、癪だった。 (一回やったくらいでなんでぇ。神だろーが網だろーが見下してんじゃねぇっつーの)   頭にきてはいたが、間合いは十分に取っていた。 決して油断していたのではない。 ただ、龍羅が風のように早く動いただけのことだった。 瞬時に間合いを詰められ、呆気にとられている間にさっと抱き上げられた。 「くそっ!離せっ離せよっ馬鹿野郎~~!!」   二度ならず三度までも取り押さえられるなんて。 接近戦では歯が立たない悔しさを爆発させた。 伸びやかな四肢を可能な限りばたばた振り回し、激しく抵抗した。 「離せーーっ!!」   その様子を龍羅は珍しい生きものを観察するかのように眺めた。 こんなところへ堕ちていながら、なんて活きのいい魂だ。 むくむくと仕置きしてやりたい気持ちが首をもたげる。 もしくは、ちょっとした嫌がらせの思いが。 必死で逃れようと暴れ、悪態をつく蛇骨の耳をおもむろに噛んだ。 「いてっ何しやがんだっ!」 蛇骨は鎮まらず、自由のきかない方の腕でひじ鉄を食らわそうとする。 (なんだ。さっきはこれで静かになったんじゃなかったか) 予想していた反応が得られず、龍羅は戸惑った。 万力のように蛇骨をがっちり捕えたまま、暫く思案した。 その間も蛇骨は馬鹿だの、鱗野郎だのと罵声をやめない。   (ったくぎゃんぎゃん喧しい奴め) 他愛ない罵声だが、こう至近で喚かれては耳障りだ。 (とりあえず、口を塞いでやろう)   「蛇骨」 低く呼ぶと、ぎっと睨みあげ、黙ってれば可愛らしい口をなお、曲げた。 「いい加減離せ!ちょっと何、」 その悪い唇を無理やり、食んだ。 瞬間、龍羅の体に震えが走った。
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