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―07年6月
キッシーは梅雨独特の蒸し暑さに参っていた。今年の梅雨は長引くらしい。窓の外は雨。目の前には無機質に稼働する加工機械が一定のスピードで動いている。
「班長、昨日阪神負けましたね。先発ボロボロっすよ」
隣にいた若い作業員が携帯のニュースを見ながら言う。
「お前、携帯なんか見ながら仕事しやがって…俺もみよ☆」
たるんだ現場の空気が俺の手をポケットの携帯へ運んだ。
「班長もしょうがないっすね。でも阪神てあんまり守備よくないっすよね。ゴールデングラブとった人っているんすか?」
作業員の痛いセリフが俺を突く。それを軽くスルーしながら、俺は携帯で検索を始める。
―阪神 ゴールデングラブ―
何件かヒットした。携帯での検索はパソコンで慣れている俺にとってはやりにくい。たいして文章も読まずに俺は、何となく手当たり次第にサイトを開いた。
「ああ、和田豊ね。ふーんこんな経歴だったんだ」
そのサイトは和田豊がどんな経歴でプロ入りし、どんな成績を残したのかが詳しく書かれていた。
ページをすすめていくと、TOPへ の文字が。そうだよな。これはなんかのサイトのページの1つだったんだ。ふーん、一体何なんだろ?
俺はちょっとした好奇心でトップページへジャンプする。
「班長、どうでした?」
「ん、ああ、和田がとったことあるってよ。なあ、お前これ何かしってる?」
俺は作業員に自分の携帯の画面を見せる。そこに表示された画面は
―プロ野球GM―
「あ、それ聞いたことありますよ。なんか野球のゲームなんですけど、選手育成して通信対戦するんすよ。でもこれ、試合は見てるだけで操作できないんすよ。」
「ふーん、データだけで戦うのか」
「そそそ。パワプロのが面白いっすよ。」
「…おもしろそうだな」
俺はゲームの解説ページをめくりながら呟いた。
試合中は選手に指示を出してゲームに参加できる。
詳しい事まではわからないが、自分にはこの手の育成ゲームが向いているということは理解していた。
その時、チラリと掲示板や対戦交流などという単語も目に入ったが、既に俺の頭の中には育成と通信対戦しかなかった。
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