3583人が本棚に入れています
本棚に追加
/2979ページ
うちに戻ると由梨が1曲完成させていた。
いつもながら、由梨は私の詞の世界を見事に曲に載せる。
曲がうまく浮かばない時でも、しかめっ面になることはない。
由梨が何か悩む事があるのだろうかと不思議に思うが、そういえば、一度だけ由梨の悩むというか、困った顔を見たことがある。
小学校の時だった。
教室で彼女に誘われ、一緒にトイレに行こうとした時だった。
「あ、由梨、頭にチョウが留まってる…」
「え……?」
由梨は椅子に座ったまま、そのままぴたっと動くのを止めた。
「まだいる……?」
「うん。つかまえようか?」
「いい……」
でも、由梨はトイレに行きたそうで、もじもじしていた。
別に虫が怖い訳じゃない。
由梨はせっかく留まったチョウに気を使っただけだ。
さすがにその時は、由梨の困った顔を見た。
もう限界だという時に、チョウはひらひらと飛んでいった。
あの時の由梨の満面の笑顔と、素早い動きは忘れられない。
あの時以上に速く動く由梨を、その後見たことはない。
そういうこともあってか、彼女はトイレだけは余裕を持たせるようにしている。
それ以外も早め早めの行動が多いかも。
あれ?
意外と神経質ということか?
由梨の部屋の様子やもろもろを頭に思い浮かべる……
いや、そうは思えないけど……
ま、いいや。
話が逸れたけど、彼女の曲は素晴らしいということ。
最初は、二人で打ち込みに載せて演奏したり、ライブの時は助っ人を頼んでしていた。
そこに元町ロフトのオーナーの紹介で、正式にベースとドラムスが加わった。
彼女たちは私たちのファンだと言った。
前のバンドが解散して、しばらく活動を休止していたが、Y'sの音楽を聴いて、また血が騒いだらしい。
最初のコメントを投稿しよう!