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一時間目と二時間目の間の休み時間は、英二にとってとても大事な睡眠時間となっていた。 部活が始まってすぐの頃、慣れない生活と朝練の疲れからよく授業中に寝てしまい、色々な先生に怒られた。 英二だけでなく後ろの席の徹も寝てしまうのだから、嫌でも目立つのだ。 担任の先生に怒られるくらいならどうってことないが、これが顧問の耳に入ったら厄介なことになることは他の一年部員が実証済み。 そうならない為にも、この休憩時間に寝れるかどうかがその日の一日を決めると言っても過言ではなかった。 いつもならそんな英二の睡眠を邪魔する者はいない。 だがこの日は違った。 「英二!英二!」 机に付して寝ていた英二は徹の声で起こされた。 授業が始まったのかと思い慌てて顔を上げるが、そうではないことを確認すると、またすぐに元の姿勢に戻った。 「英二!バカ、早く来いって!」 みかねた徹が英二を揺すり起こすと、不機嫌な英二の腕を引っ張り、無理矢理廊下へと連れていった。 「おはようございまーす!ほら、お前も挨拶しろよ」 徹は二階の廊下の窓から外に向かって大きく手を降っている。 意識して目を向けるより先にその姿をとらえた時、やはり徹に話すべきではなかったと後悔した。 窓から見下ろしたそこには、佑奈を含む数人の女子生徒がいた。 身を乗り出し手を振る徹の姿に思わず笑いながら手を振り替えしている女子生徒の中、佑奈はキョトンとした顔でこちらを見ている。 気か付かれる前に立ち去ろうとしたが、一足遅く佑奈と目が合ってしまった。 ヤバイと思ったが、次の瞬間にはその気まずさは忘れ去られていた。  先輩  それ、ずるいっすよ 「良かったな、英二!見つけた俺に感謝しろよ」 席に戻った後も徹は嬉しそうに足をバタバタとさせていた。 こらえきれずににやついてしまう。 恥ずかしくて徹にそろそろ準備しろと言い、授業モードに入るフリをするが、頭の中は佑奈の姿でいっぱいだった。  笑ってくれた  徹があれだけ騒いでも何も反応しなかった先輩が  俺の姿を見つけて満面の笑みで手をふってくれた  わかってる  自惚れるわけじゃない  それでも自分だけに向けてくれた笑顔みたいで  嬉しかった  …やばい 完全に持ってかれた
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