視線の先

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それからの徹はしつこかった。 「絶対にそうだって!聞いてみろよ」 いつものことだが、根拠の無い絶対を何でそんなに自信を持って言えるのか不思議で仕方がない。 あまりにも堂々と言うので本当にそんな気がしてくることは多いが、さすがに今回は受け入れられなかった。 「聞けるか。違ったら恥ずかしいだろ」 「いやいや。俺はさっきの笑顔を見て確信したぜ。絶対あのアクエリは望月さんだって」 あの練習後にカバンに置かれていたアクエリアス。 徹はそれを置くのは佑奈だと言うのだ。  俺の為に?  あの先輩が?  なぜ? もしそうだとしたら淡い期待を抱いてしまうが、その展開はいくらなんでも都合が良すぎる。 「無いな」 「わかんねーだろ?」 「ちゃんと話したのはこの前が初めてだぜ?むしろその前にもう置かれてたんだ。ありえないな」 「でも望月さんはお前のこと知ってたんだろ?」 一瞬止まった。 徹は英二がくすぐったくなるところを上手くつついてくる。 でもさすがにこの状態ではただの自惚れだ。 期待するなと言い聞かせるように少し首をふり、ため息とともにその答えを吐き出した。 「それはお前、船木さんの後輩だから」 これ以上徹と話してると本当に勘違いをしてしまいそうだ。 英二はトイレ行くと行って席を立ち上がった。 徹には言わなかったが、英二はあの時の光輔、佑奈のことを話した時のことがやっぱり気にかかっていた。 何かしらの関係があるに違いない。 そんなことを考えながらボーッと歩いていると、突然声をかけられた。 顔を上げたその先には洋がいた。 移動教室で向かっていた所なのか、手には教科書らしき本とボールペンだけが握られていた。  このタイミングでこの人に会うとは 「岩谷さん、おはようございます」 「なんだ、まだ眠いのか?ボーッとした顔して」 「あ、いえ考え事をしてました、すみません」 洋は笑いながら、転けないように気を付けろよと言い、手を振り行こうとする。 「岩谷さん!」 思わず呼び止めていた。 「ん?」 「あの、船木さんって付き合ってる人いるんすか?」 正直自分でも驚いた。 俺は何を聞いてるんだと恥ずかしくなり、英二は慌ててやっぱり何でも無いですと言い教室へ戻っていった。  俺は何をしてるんだ  何がしたいんだ  どうしらたいいんだよ
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