15672人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ
苦い。本来なら、この苦さとチョコの甘さが歯車のように噛み合い絶妙なハーモニーを奏でる。
俺は、小町の手提げ袋から紫色のハート型だったものを取り出し、皺のよった包みを破いて、中身を食べた。
案の定、チョコは割れていて、こんなのを渡されたらある種の不幸寄せだろうか? と、疑ってしまうだろう。
「勝手に食べないでください」
「いや、苦いコーヒーに甘いチョコは必須だろ?」
「知りませんよ」
「まぁ、そう拗ねるな」
俺は制服のポケットから、包みを取り出して小町の方に投げた。
両手で飛来する包みを受け止める。「なんですかこれ?」と、小町は言った。
「チョコレートだ。お前は、それをたいき君にあげて来い」
「どうして山内さんから貰ったものをたいき君に上げないといけないのですか?」
俺は苦い珈琲を飲み干し、その勢いのまま小町に言った。
「いいか、そのチョコにはな、物凄く大きな、『大好き』って想いが籠められてる。嘘じゃないぞ。大マジだ。もし、たいき君に想いを伝えたいならそれを渡せ。したら一発! 即効ダウン」
「はぁ。……どうして山内さんがそんな好き好き大好き超愛してるなチョコを? まさか自分で自分に作ったんですか? ナルシストキモいですね」
「俺はどんだけ悲しいやつなんだ。ちょっとだけ、お前の中の自分に同情するわ」
じゃなくて、と俺は言葉を継ぐ。
「それは俺の彼女がくれたものだ」
「脳内彼女というやつですね」
「違う! お前はどんだけ俺を女っ気のない孤独なウルフにしたいんだ」
「では、まさか本当に居ると!? なるほどこれが豚に真珠というやつですか」
「狼じゃなくて豚に格下げになってしまったか」と嘆いてとりあえず。ここで、俺は人差し指を立てて小町を見た。「豚からひとつ注意な。そのチョコは本当に良く出来ていて、たぶんそれを渡すということは、来年のお前への相当なプレッシャーになるはずだ」
右手を伸ばし、小町の頭を撫でる。
「お前は今よりももっともっと好きって気持ちを強くしないと、来年のバレンタインにそのチョコに負けることになるぞ」
俺は聞いた。「来年は今年以上に頑張れるか?」
その問いに小町は笑って、
「山内さんの彼女さんに負けるなんてありえません。良いでしょう! 勝負です」
天高く拳を突き出した。
――
最初のコメントを投稿しよう!