七夕

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「秋人君!! デ~ト~!!」 その大声に中庭に居たどれほどの生徒が反応したことか……。 「わわわっ、みみ、みよりさ~ん。そげなこと大声で言っちゃイカンよ~」 結局この場を穏便かつ冷静に収めるために、俺はみよりの口を塞ぐことにする──俺はみよりの口に、残り半分のエビフライを突っ込んで黙らせた。 ぽー。と、赤くなったみよりが、ゆっくりと味わうように咀嚼して飲み込んだようだ。 「ん、ふふ、秋人君の味? 間接キスだ~」 惚けた表情で呟いて、えへへ~。と、ずっとニヤけていた。 水近は、ご馳走さま。て、表情。 俺? 当然真っ赤。 ── みよりの話を要約するとこうだ。 今日は七夕で、織姫と彦星が会えるとてもロマンチックな夜らしい。 私もあやかりたい。 そうだ。隣町で七夕祭りがあるから、秋人君と参加しよう。 だ、そうだ。 なんだかな~。 まぁ、祭り自体は好きなんだが、女と二人っきりってシチュはあんまりな~。 だってみよりだろ? ……うう、集まる視線に胃が痛くなりそうだ。 もちろん拒否するつもりだが、学校では大声で泣き落とし。 帰り道でも大声で泣き落とし。 その泣きまねに振り向く人々。 あんな可愛い子泣かして、やーねー。おい、あの野郎調子こいてんじゃネーの。うわ、女の子泣かしてサイテー。 そして何故か俺の心を抉るような視線と声。 あの女は策士だ。 今張良と言っても言い過ぎじゃないだろう。 普段は控え目なくせに、ちゃっかりしてる時は本当に小悪魔だな。 俺は溜め息一つ吐いて、みよりとの待ち合わせ場所──偉人像前に立っていた。 待ち合わせは六時。 現在六時一分。 あの野郎、一分も遅刻するなんて……今世紀最大の罪だ。 いや、未来永劫これほどの凶悪犯罪も起きないだろう。 遅刻の罰に、今日は何を奢らせようか考えてると、 「ごめん! まった~?」 聞き慣れた声、女女した声が耳朶に響く。 「テメェ、よくも俺の人生をいっぷぅ……」 声のした方に振り返った。 息を呑んだ。 言葉が出てこない。 俺の目の前にいるのは、みより? いや、みよりなんだけどさ。なんつーか、みより?
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