始まりの話

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  恋に落ちるなんて、事故に遭う様なモノだ。 クリスマスまで、あと10日。 予定、ナシ。 恋人、ナシ。 恋の気配、当然ナシ。 そんな事よりも、年末の忙しさ。 忘年会の予定や年賀状の印刷の方が重要で、 ダメだ。 私、オンナ失格かもしんないわ。 「こうも簡単に、恋に落ちてみたいもんだ」 休憩室。 暇つぶしに読んでた小説に、思わず苦笑。 つい口を吐いたソレに、後輩が顔を顰めて私を見る。 「何スか?いきなり」 「や。友達の妹が貸してくれた小説なんだけど、さ」 「小説、ですか?」 「そ、少女小説。ま、10代の子の為の恋愛小説ね」 当然、そんなものに興味のない後輩は視線を戻して、紫煙を吐き出す。 視線は戻らない。 でも、何だかんだで、毎回、私の話に付き合ってはくれる。 「そんな簡単に恋に落ちてんスか?ソレ」 「かなり簡単に恋に落ちてるね」 一目会ったその日から恋の花咲く事もある。を、否定する気はないけど、安易過ぎていっそ笑える。 「でも、んなモンじゃないっスか?ガキの頃の恋愛なんて」 ……まぁ、確かに。 お手軽、インスタント恋愛なのかもしれない。 オトナの恋愛も別の意味で同じ引用できるけど。 「先輩だって、中学生位の頃はそんなモンでしょ?」 中学生の頃?? 「そーねぇ、3年生にテニス部の加藤先輩ってのが居てね?」 「は?」 記憶を辿れば、少女漫画レベルにモテていた中学生時代の先輩を思い出す。 ……どうしてあんなにモテてたのか、未だに理解は出来ないけれど。 「友達が、その加藤先輩の事好きだったの。話した事もないのに」 「…………、で?」 「で。ある日、加藤先輩に彼女が出来たの。友達は本気で泣いてたんだけど、よく、話した事もない相手に彼女が出来たくらいで泣けるモノだと、心から感心したのを覚えているわ」 言う私に、後輩は深い深いため息を一つ。 「先輩。ガキの頃から、可愛げのカケラも無いっスね」 失礼な後輩だ。 探せば、カケラ位はある筈だ。多分。 「でも、羨ましいよ。こんなに簡単に恋に落ちれる体質の持ち主が」 「……体質ですか?ソレって」  
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