残業の夜

4/5
20999人が本棚に入れています
本棚に追加
/240ページ
  ぼんやりと外の景色を視界に映して、でも、ふと肩に重み。 視線を落とせば、やっぱり、相当疲れたらしい先輩の寝顔。 ……、二回目、かな? 入社してからずっと、飲み会の帰りは送ってるけど、酔っぱらっていてもいつも先輩は起きてたし。 だから、寝顔を見るのは、矢島さんのゴタゴタの時以来、二回目。 無防備に寝入る姿に、少しだけ口許が緩む。 信頼されてると思えばいいのか。 オトコだと認識されてないと思えばいいのか。 慣れてしまった距離は、元の距離には戻らない。 それが、いい事なのか、悪い事なのか。 イロイロと複雑なのかもしれない。実は。 でも、別に何を変えたい。って事は無いんだけど……。 「先輩?」 先輩のマンションに到着して、起こすために呼べば、ビクリと肩が跳ねる。 「あ、れ?」 「着きますよ」 「あ、あぁ。ごめん、寝てた?」 やっぱり、疲れてるんだなぁ。 「はい。降りて」 「え?あ、」 促して、一緒にタクシーを降りる。 先輩と俺のマンションの距離は、実は徒歩7分。 「って、あれ?お金」 「支払済みです」 「……私の分、」 「要りません」 頭がうまく働いてない内に、先輩の部屋の前まで進む。 「ってか、何で相模まで降りたの?」 「無事に送り届けないと。と思って?飲み会の時は、いつもそうじゃないですか」 今日は酔ってないけど。 「お金、」 「今度、食べ物で要求しますんで、大丈夫です」 「……ザンギ作ろうか?」 「あ、食いたい」 即答すれば笑われる。 でも、まぁ、うん。美味いんだよ、この人のザンギ。 「じゃ、ゆっくり休んで下さいね?」 「あ、うん」 「おやすみなさい」 言って、その場を離れようとする俺の裾を、ふと先輩の指が掴む。 「……先輩?」 「ありがと」 睡魔の所為もあって、ふわふわとした声と笑顔。 その姿に、思考能力が低下して、 「っ、」 思わず、触れそうになった唇。 ギリギリで冷静になって、慌てて離れるけど、 「……あっぶね」 危なかった。 「……浮気反対」 「ソレに関しては同意見です」  
/240ページ

最初のコメントを投稿しよう!