七夕秘中(蛮蛇+七人隊)

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  夜も遅くに、睡骨は帰宅した。   冷蔵庫にしまわれた夕飯を取り出しているところに、蛇骨が水を飲みにふらふらとキッチンに現れた。 「あ、睡骨」 またふらふらと食卓に行き、戻ってきた。 頬も瞳も赤く染まっている。 仏頂面で睨みあげてきた。   …ちぇ。医者かよ。からかい甲斐ねぇの。 ほらよ、おめぇの分書いといてやったぜ。   ぶっきらぼうにぴらり、と睡骨の鼻先に紙を突きつけた。 柔和な善良顔が固まり、瞳が丸くなった。       「全くこんなもの吊してやることねぇだろう」 煉骨が睡骨の晩酌に付き合い、詰った。 「おめぇがそうだから、いつまでもあの馬鹿が調子に乗るんだぞ」 「そうだな…」 冷たく詰られているにもかかわらず、睡骨は微笑んだ。   煉骨の兄貴が言うのも尤もだ。 だが、幼い悪さを仕掛けては悦に入っているのを見るのも嫌いではない―。 医者にも羅刹にも気の毒なことだが。   くどくどと、未だ煉骨の小言は静まった居間に垂れ流れていた。 睡骨は聞くともなしに耳を傾け、庭の笹に掛けてきた短冊を思いおこした。   『早く入間になりたい 垂骨』   「…なぁ、煉骨の兄貴。蛇骨に漢字ドリルは今更無理だろうな」 しみじみと漏らした睡骨の言葉。   すっかり睡骨への小言から日々の愚痴に変わり、自分に浸っている煉骨の耳に入ることはなかった。   (来年はどんな悪さを仕掛けてくるのだろうか) ビールのグラスを空け、こっそり睡骨は微笑した。     七人隊の誰も気付きもしないこと。   睡骨は一年に一度、七夕の夜、何の障害もなく医者と羅刹が統合する――。       オチなくおしまい。 20080707.
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