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朝陽がやけに眩しい…。
手袋をはめたような前足で六助は目のまわりを撫で、大きく背伸びした。
いつもは決まった時間に起きる六助だが、どうやら今日は寝坊したらしい。
『さてと、見回りに行くか…』
六助は軽い足どりで住家にしている神社をあとにした。
…何時頃だろうか。
太陽が少し高く感じる…。
いつもの塀も暖かい…
そんな事を思いながら…時に立ち止まり、時に小走りで見回りを続けた。
柔らかい風が自慢のヒゲを揺らす…。
『春だなぁ』
本格的にポカポカし始めた頃、六助は並木道にさしかかった。
満開の桜が舞い上がり、そして消えていく…。
辺り一面ピンクに包まれた景色の中に一匹の猫がいた。
その猫はとても上品な白い色で…気高くて…どこか寂しそうな…
六助は思わず見とれてしまったが、その猫は気付いていない。
六助はその猫と友達になりった。
理由は分からないけど…
もしかすると一目惚れかもしれない。
初めての鼓動の高まりに少し戸惑いながら、前足を一歩踏み出そうとした。
その瞬間…
桜は勢いよく、渦を巻くように一気に散っていった…。
そこに残されたのは、なんとか耐え抜いた少しの桜と六助だけだった。
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