エメラルド色の瞳

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「ニャー…」 あれは……… 小学校からの帰り道。 原っぱの片隅にうずくまる黒い子猫を見つけた。 弱々しい鳴き声をあげて僕を見つめる子猫。 僕はその可愛らしさに思わず手を伸ばす。 抱き上げてみると羽のように軽い。 しなやかな漆黒の毛並みにエメラルド色の瞳。 僕はウットリと子猫の手触りを楽しむ。 「ニャ…ニャン!」 大人しかった子猫が突然暴れ…僕の手をすりぬける。 「…あ!」 トンッ… 見事な着地をした子猫は僕に何か言いたそうに、その瞳を細めた。 そして…ゆっくりと歩き始める。 何回も僕を振り向きながら……… …着いて来いって言ってるのかな…? 僕は子猫の後を追う。 僕が追い掛けて行くのを確認すると、子猫は急にスピードを上げた。 ダダダダダ……… 「待って!」 僕は必死で駆け出した。 キキキィーーーッ! ドンッ! 十字路を飛び出した子猫の身体は宙を舞った。 「あ…ああ…」 僕は震えながら地面に叩きつけられた子猫に歩み寄る。 そっと抱き寄せると…… 「……ミャ……」 か細い声で鳴き…子猫はぐったりと力を抜いた。 まだ…温かい… 子猫から流れる真っ赤な血が……… 僕の両腕を濡らした。 「ウワァ!」 また…あの夢か… 布団の上に起き上がり暗闇を見つめる。 実家に帰ってくると必ず見る夢……… 手には…ビロードみたいな猫の毛並みの感触まで残っている。 やけに生々しい…色褪せる事の無い夢だ。 小さかった僕は、もう大学生になっている。 今は東京で一人暮らし。 大学とバイトで忙しい毎日だが、結構充実した生活を送っている。 この春に祖父が亡くなって…今年は新盆なので帰省した。 バイト先にも事情を話して、一週間実家で過ごすつもりだ。 最初の夜にまたあの夢を見て……… 僕は少し感傷に浸る。 せつなさが込み上げて…涙が零れた。
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