1 夢か幻か…

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幼い頃。 一度だけ、夏休みに家族四人で新潟駅前にあるデパートに行ったことがあった。 私は新潟の佐渡島に住んでいる。でも佐渡にはデパートはない。わざわざ船で新潟市内にいかなくてはならない。だから、滅多に家族で佐渡を出ることはなかった。 私は真鍋杏子(まなべきょうこ)。 4つ年上の兄、真鍋准一(まなべじゅんいち)。 幼い頃の私は、兄のことを「准ちゃん」と呼んで慕っていた。 その日は漁師の父さんと、母さん、准ちゃんと4人でデパートに行き、目的のおもちゃ売り場に向かった。 准ちゃんがロボットのおもちゃのショーを楽しみにしていて、母さんが准ちゃんのために連れてきたのだ。 私は、ロボットのショーも楽しみだけど、ぬいぐるみが沢山並んでいるコーナーに気付いて、自然と足がそっちに向いてしまった。 夏休み中のおもちゃ売り場はかなり混雑しているので、父さんは私を肩車してくれたり手を繋いで離さなかった。私は父さんっ子だったから、そんな父さんにしがみついて、でも初めてな大きなデパートのおもちゃ売り場にもワクワクが止まらなくて、ずっと辺りを見回していた。 私はふとした瞬間に父さんの手から離れて、真っ白いテディベアに夢中になっていた。 そして振り向いた時、すでに見知らぬ人たちがそこにいて、父さんも母さんも、准ちゃんもいなくなっていた。 行き交う大人たちが、私が泣き出すのを待っているかのように顔を覗き込み、 「どうしたの?」 「迷子?」 と話し掛けてくる。
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