2394人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
幼い頃。
一度だけ、夏休みに家族四人で新潟駅前にあるデパートに行ったことがあった。
私は新潟の佐渡島に住んでいる。でも佐渡にはデパートはない。わざわざ船で新潟市内にいかなくてはならない。だから、滅多に家族で佐渡を出ることはなかった。
私は真鍋杏子。
4つ年上の兄、真鍋准一。
幼い頃の私は、兄のことを「准ちゃん」と呼んで慕っていた。
その日は漁師の父さんと、母さん、准ちゃんと4人でデパートに行き、目的のおもちゃ売り場に向かった。
准ちゃんがロボットのおもちゃのショーを楽しみにしていて、母さんが准ちゃんのために連れてきたのだ。
私は、ロボットのショーも楽しみだけど、ぬいぐるみが沢山並んでいるコーナーに気付いて、自然と足がそっちに向いてしまった。
夏休み中のおもちゃ売り場はかなり混雑しているので、父さんは私を肩車してくれたり手を繋いで離さなかった。私は父さんっ子だったから、そんな父さんにしがみついて、でも初めてな大きなデパートのおもちゃ売り場にもワクワクが止まらなくて、ずっと辺りを見回していた。
私はふとした瞬間に父さんの手から離れて、真っ白いテディベアに夢中になっていた。
そして振り向いた時、すでに見知らぬ人たちがそこにいて、父さんも母さんも、准ちゃんもいなくなっていた。
行き交う大人たちが、私が泣き出すのを待っているかのように顔を覗き込み、
「どうしたの?」
「迷子?」
と話し掛けてくる。
最初のコメントを投稿しよう!