shine・1 ― 憂鬱と煌めく光

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「はぁ……」 小さな溜め息は、横断歩道を歩く人波に踏み潰されて消えていく。 恋バナは、やっぱりついて行けないよ。 バイト先で繰り広げられた光景が蘇る。 甘いケーキの香りがついた洋菓子店の制服姿で、休憩室の丸いテーブルに着いた矢先の事だった。 「美雨、彼氏が出来たんだって」 「本当?良かったね」 「前に言ってた人でしょ、イケメンの優斗君だよね」 私の親友、美雨に彼氏が出来たんだ。 肩にフリルのある白いエプロンを外し、テーブルの上にばさりと置いて頬杖をつく。 バイト仲間の綾、翔子、早苗は、頬を染める美雨に近寄って、出会いから付き合うに至るまでの経緯を根掘り葉掘り聞き、「へぇー」だの「キャー」だの言って盛り上がる。 嬉しそうに笑う美雨。 小さな白い手のひらをパッと開き、口に当てる仕草は愛らしく、暫し見つめてしまう。 そして、いつの間にか美雨の話だけに留まらず、「私なんか、彼氏と喧嘩して……」と急に話題を方向転換し、恋愛相談教室が始まった。 いや、だからさ。 私はくたびれて、愛想笑いも相づちも力尽きて、ただ一緒にいるだけの人になる。 「ところで涼歌(りょうか)、あんたならどうする?」 美雨の方に身を乗り出していた綾が振り返り、放った言葉に即答できない。そう聞かれても困るんだ。 「喧嘩ね……、よくわからない、その状況を見てないし……、話し合うのがベストかな」 軽く微笑みながら、相応しい答えの振りをして無難な台詞を吐く。 ごめん、よくわからないよ。私にとって理解不能のエリアなの。 恋の何が楽しくてどう良いのか、わからならないから。 だって、恋なんていらないじゃない。 恋なんていらない。 恋バナは苦手。 私は、こうやって時々憂鬱に襲われる。 アソファルトに続く、白とグレーの縞模様に飲み込まれるかと思う程、足が酷く重かった。
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