夏祭りと狐

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「ほら、ウインナー」 私は処分寸前のウインナー20本を犬に差し出す。 犬に言われた方角に進むと、10分もしないで来た道に戻れた。 犬の方向感覚って素晴らしい。 でもさっきの苦労を考えると、何だか少し腹が立つ。 「美味しい?」 ひたすらとウインナーに食らいつく犬をまじまじと見る。 このウインナー、処分する人が居なかったら私が食べる予定だったんだけど……。 お腹を空かせている犬を放って置くほど、私は冷たくないのよ。 「それにしても、ホント大きい。雑種かな?」 『狐だ』 What? 「でえぇぇえお!? 喋った!!」 『妖だからな。人語くらい話せる』 ゆっくりとした動作で犬……自称狐が起き上がる。 どうやらウインナー20本で、体力を回復したらしい。 「狐の食べ物って油揚げじゃないの?」 『ほう、我の声を聞いてもあまり動じていないのか。そこは感心してやる』 「ちょっ、私の質問スルーですか?」 『煩い。まぁ、湯通しした油揚げなら食えるぞ』 なるほど。 狐って意外と雑食なのね。 ……って、突っ込み所はそこじゃない!! 「狐ってコックリさんとかに出てくるよね。なんでこんな所でグッタリしているの?」 『野狐と一緒にするな。善狐はそんなことをしない』 「ヤコ? ゼンコ??」 『簡単に言うなら、野狐はノラ狐で、善狐は神社に居るモノだ』 無知だな、と溜息を零す狐。 しかし一般の女子高校生が狐の生態に詳しかったら、周囲はドン引きだと思うのは私だけだろうか。 「そういう狐さんは、一体何者なの?」 『少し前まで善狐だったが、位が落ちて野狐になった』 そう言って、野狐は祭の会場であった神社の方向を見た。 どこか寂しげで、だけど自嘲じみた口調で狐は口を開く。 『もう、あそこに神は居ない。あるのは社だけだ』
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