翡翠の瞳

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目が覚めたのは偶然だった。 いや、つねに眠りの浅い菊の第六感であったのかもしれない。 ゆっくりと目を開けると、思った通り、未だ夜明けには遠い静かな闇の中で。 その静寂が破られたのは、唐突だった。 スッ…カタン 菊は自室の障子が開けられる音に、常に傍らに忍ばせている愛刀を抜きざま、侵入者へと切り掛かった。 「!」 不意をついた渾身の一撃をいとも簡単にとめられた事に驚き、飛びずさって間合いをとる。 「何奴!」 叫んで、その侵入者を睨みつけるも。 「なかなかの腕みたいだな」 すぐに間合いをつめられ、刃がぶつかった。 「へぇ、こんな細い腕でなぁ」 明らかに嘲笑を含んだ言葉に、菊は侵入者を見上げる形になりつつもキッと睨みつけようとし、息を呑んだ。 先程までは、闇にとけていたその侵入者の姿が、開け放された障子の隙間から差し込む月光で現れたのだ。 こんな夜盗のような真似は全く相応しくない、整った容貌。 月光に反射しているきらきらとした金髪。 しかし、菊が一番心奪われたのは、その翡翠の瞳だった。 思わず状況を忘れて見入ってしまった菊を我に返したのは、その翡翠の瞳を持つ男の呟きだった。 「The mysteries of the orient…」 異国の言葉を呟いた彼は、菊の片腕を掴んだ。 「お前、名前は」 腕を掴まれ、警戒を強めたところへの唐突な質問。 「本田、菊、ですが…」 思わず律儀に答えてしまったことに、菊は内心臍を噬んだが、 「本田菊、か…気に入った。お前、着いて来い。言っておくが、お前に拒否権はないからな。俺の命令は絶対だ、よく肝に命じておけ。」 目の前の男は心底愉しそうに、にやりと笑んだ。        
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