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「……なァ、フィオ」
「どうしたの?」
「俺、これからどうしたらいいと思う?」
「……私のところには来ないでね」
「……なんでだよ?」
「私、君の〈名前〉知らないもの。〈名前〉も知らない人を、家に上げたいとは思わないでしょ?」
からかいながら、彼女が人差し指を俺の鼻にあてて、力を入れる。
ややよろけながら、俺は胸に手をあてた。
「六番目の……」
「〈六番目の殺し屋〉じゃなくて、君の名前」
……遮られて、それがなんだか面白くて……意味もなく、俺は体を震わせ、笑う。
「ちゃんと教えて。私、君のことを知りたい。……君の隣を、歩いていきたいの」
……このフィオは、俺が好きだった、あのフィオではない。
同じ〈フィオ〉だけど、別の〈フィオ〉なんだよな……。
だけど、多分、きっと……もう一度フィオを好きになるのに、時間はかからない。
「……俺はトガ。トガ・ウェンハンスだ。これが、俺の名前だ」
「あらあら、そう……トガ、っていうのね」
心地よい風にあてられながら、初めて出会ったはずなのに、俺達は打ち解けて暖かな心でお互いを見つめていた。
すげー恥ずかしくて、気をそらそうとポケットに手を突っ込んで……俺はそれに気付く。
「フィオ。なんでお前、片方しかピアスしてないんだ?」
「なんでだろうね? このピアス、一つしか持ってないからかな……?」
首を傾げる彼女は、それがどうかしたの? と聞き返す。
俺は話をそらして、別のことを訊ねる。
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