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「大丈夫!そんな!目を閉じなくとも!」  運転手はがなりたてた。恐る恐るドレルは薄目を開けたが、運転手は自分の目の前にズラリと並んだ計器にも、目を向けてさえいなかった。まだドレルの方に張りついたような笑みを向けていたのである。 「だんだん地面から離れていく眺めは最高ですよ!その窓から見えます!」  運転手は顎を窓に向けて、ドレルを促す。そしてようやくシートの背もたれを戻した。運転手の頭上にも、ドレルには解らない、昔の懐中時計みたいな計器がズラリと並んでいて、針がどれも忙しなく揺れていた。  ドレルは窓の外を見ようと横を向いたが、楕円形の着色ガラス製の窓には、まだ白い煙が流動するのしか見えなかった。身体が上下に小刻みに揺れて、吐き気すら感じていた。ドレルは前に向き直り、怯えた瞳で運転手をみる。運転手は苦笑をもらした。  その苦笑に、ドレルは反応して、ささやかな虚勢を示してみた。 「こわくは!こわくはありませんよ!」  運転手はそれを訊いて前に向き直り、「そうですか。」と言ったが、爆音にかき消されてドレルの耳には入らなかった。  計器板の中でもひときわ大きい計器が、運転手の右手側にある。それは後部座席のドレルからも見えた。その秒針が、ゆっくり震えながらグリーンのエリアにまでふれた時、運転手は慣れた手つきでレバーを倒した。そしてその直後、ドレルの身体中に衝撃が来たのだ。そして、シートにめり込むように、ものすごい重圧が彼を襲った。  離陸したのである。  カウントダウンがあるものと思っていたドレルは、意表をつかれて、気を失ってしまっていた。まだ速度は、高速エレベーターほどの時だった。
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