プロローグ:現れし影

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 今宵の満月はプラチナの月光を放ち、昼間とは違い、幻想的な光で大地を眩い程に照らし出す。  光を受けて全体が晒されるのは大きな館。広大な平原にて、一見孤独溢れる寂れたそこへ、青い芝生を踏む音が近付く。  月光を背に受けるその姿は、前方からでは強い影(と言うより、真っ黒と言った方が正しいか)に視界を遮られ、メドュウサのような巨大な目を持たねば見れないであろう。背中からも、月光が強いが為か、一面白銀色に染まっていて、輪郭だけ見えても色の識別が出来ない。  彼が館の扉前で足を止めると、耳に付けているであろう、耳元からピアスらしき音がチャリッ……と、微かな音を立てた。男の横顔は軽く上がり、館を見上げている。   「こーんな殺風景な広場に、砂のお城があるとはね」    何とも面白い、と言わんばかりに、薄い影となった彼の口は弧を描き微笑む。   「さて、さっさと終わらせるか」    そして手に何かを握ると、突如の強い風と共に、芝の草を巻き上げながら姿を消した。消してから一秒後、館の最上階の最西端の部屋。大きなガラス窓の目と鼻の先に彼の影が現れ、彼の足は派手にガラスを蹴り割り、前へ一回転しながら部屋内へ侵入した。  その音を聞いた部屋の主は即座に立ち上がり、自分の前に整列している十人程のボディガード達も機関銃を構えた。部屋の主──基、館の主は、小肥りな中年で、黒いちょび髭の男だ。高級そうな赤系のバスローブを着ている。影の者が現れてからかなり怯えていて、少し離れていても震えているのが十分分かる。
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