凶兆

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だが。 本当に米艦隊は出てくるだろうか? そんな懸念が益田の脳裏から離れない。 確かに欺瞞の限りを尽したが、米艦隊が必ず出てくる。そんな確証はない。 現時点では、あくまで出てくる可能性を高めただけに過ぎないのだから。 だが、まぁいい。 それでも出てこぬというのなら、ウェークを火の海にするまで。 それでも出てこぬなら、 次はミッドウェー。 それでもまだというなら、真珠湾まで肉薄し、港ごと艦隊を粉砕してやる。 そう思い直すと、益田は頬を手で叩き、疲れた体と脳に気合いを入れ直した。 潮風に乗って流れてくる、出撃を見送る根拠地の兵士達の声援や、軍楽隊が奏でる『軍艦行進曲』の音色も、益田の士気をより軒昂なものへと高めた。 艦が外海に向かうに従い、深緑生い茂るトラックの島々は小さくなっていく。 だが艦隊の兵士達も岸壁の兵士達も、いつまでも帽振れをやめなかった。 尚、益田の懸念は出撃から半日後に杞憂となって消えた。 真珠湾近海で哨戒にあたっていた伊号潜水艦より、 『米艦隊出撃ス』の一報が入ったためだ。 この報告後、益田は小沢長官より仮眠を厳命された。
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